第11回 佐賀県公立小中学校事務研究大会基調講演
平成13年11月6日(火):アバンセ
姫路工業大学 清原正義教授
はじめに
こんにちは。ただいまご紹介いただきました清原です。佐賀に来ましたのはこれで二度目なんですが、こういう形でお話をさせていただくのは、初めてでございます。
アバンセというこの施設は、全国的に有名なので「一度来てみたい」と思っておりましたが、予想どおり立派な施設で感心しております。今日は皆さん方の研究大会ということで、私がお話をさせていただいて、その後シンポジュウムという運びになっているそうであります。1時間という限られた時間ですが、今考えておりますことを率直に申し上げて、皆さんと共に考えていきたいと思っております。どうか、よろしくお願いします。
お手元に一応レジュメを用意してきておりますが、現在なお考え続けている問題について三点だけ申しあげたいと思いますので、是非、後ほど忌憚のないご意見・ご批判を聞かせていただければと思います。
学校事務をめぐる状況
1998年に中央教育審議会が「今後の地方教育行政の在り方について」の答申を出しました。この答申の中味は大きく言って三つあります。一つは『地方分権』、これは文部科学省が音頭をとっているわけではありませんが、90年代に入りましてから、地方分権の流れの中で教育行政ないしは教育のシステムをどう分権化していくかということが一つの大きな柱になっています。もう一つは『学校の自主性・自律性』です。これは文部科学省のリーダーシップによって提唱しておりますが、学校にできるだけの裁量を与えていこうということです。自主性・自律性の中味をこれから我々が究明していかなければならないという面もあるのですが、学校の責任と判断でより自主的な自律的運営を進めていこうという考え方が柱になっています。それから三番目には、『学校の説明責任』ということがよく言われますが、これは自主性自律性とちょうど裏と表の関係、対になっている関係であります。「責任と権限」が与えられると同時に学校がそれを地域社会・保護者・教職員、関係者それぞれが責任をもって情報を公開しながら、また共有しながら、連携を取って新しい学校のスタイルをつくっていこうという風な問題意識が、98年の中教審答申には色濃くみられたと思います。
これは世界的にもそういう流れが先進諸国にありまして、表れ方は国によって地域によって様々ですが、我が国ではそういう形で登場しています。歴史的な背景等につきましては割愛させていただきますが、おそらく今後5年間から10年のスパンでそうした動きが強まっていくだろうと思っております。そういう流れの中で、「学校事務職員の学校運営に果たす役割」、或いは「学校事務の今後の展開」が、相当異なってくるのではないかと考えております。学校事務職員の位置づけがどのように変わっていくのかについては、以下、具体的に三点について、変わってくる可能性があります。この点について学校事務職員の皆さんがどのように考え、どのように対応されるかによって、今後の学校事務のあり方や学校事務職員をめぐる制度的な条件が変わってくると思います。この三点について申し上げたいと思います。
第7次定数改善計画と学校事務職員定数
まず申し上げないといけないのは、本年4月から小中学校におきましては、第7次の教職員定数改善計画が始まっており、この特徴は、二つあるということです。
一つは、冒頭に申しあげましたように、地方分権の動きが進んだ中での定数改善計画の実施ですので、従来の定数改善に関係する施策の進め方とは、違った動きが出ています。この進め方の違いに一つ特徴があると思います。と言いますのは、今年の3月に国会で義務標準法の改正が行われました。この義務標準法の改正の要点は、教員の場合と学校事務職員の場合とに分けて申しますと、教員の場合は義務標準法の第7条の第2項、これは教員の加配について定めた規定です。そもそも義務標準法第7条第1項は、学級数に補正係数をかけて教員の基礎的な定数を算定する規定です。ご存知のように学級編制の標準は現在40人学級ということで、1980年以降維持されたままです。今回の義務標準法改正にあたってもこの点は変わりませんでした。その代わりに第7条第2項で「特別な加配」を定めた訳です。この加配の中味は、1993年の第6次定数改善計画の時に始まった「個に応じた指導」、それから「選択教科の拡大」これは中学校のことですが、この二つが93年に定められたものです。今回それに加えて「少人数指導のための加配」が付け加わりました。少人数指導の加配という名目での教員の加配が全国的に進行している状況であります。
一方、学校事務職員はどうだったかと言いますと、学校事務職員の定数につきましては、皆さんもよくご存知のように、義務標準法の第9条で基礎的な定数の算定の仕方が定められています。細かいことは申し上げません。3学級以下の学校の3/4に配置するとか、4学級以上の学校の全校に配置するとか、或いは小学校では27学級以上、中学校では21学級以上の学校に複数を配置するとか、いわゆる算定の方法がそこで定められています。学校事務職員の定数改善につきましては、今回変わっておりません。この部分は学校の規模によって定数が定まってくる部分ですが、ここは変わっていないということにご留意ください。
それでは今回どこが定数改善に関係する部分として付け加わったかと言いますと、義務標準法第15条の「特例加配」ということで、例えば人権教育のための教員の加配、教育困難校への加配、或いは在日外国人児童生徒がいる学校への加配、その他に研究や研修のための加配、この特例加配に学校事務職員の定数加配のための特別の規定を盛り込みました。「事務の強化、情報化等に関する特例的な加配」ということで、初めて学校事務職員の特例加配が今回実現した訳です。これに基づいて、義務標準法施行令も改正されました。この施行令の中で、学校事務職員の特別な加配を行う場合は「これを拠点校に配置する」という主旨の規定が施行令で定められ、その改正に伴いまして第7次定数改善計画の中で5年間にわたって726名の学校事務職員の加配が予定をされたということになる訳です。少し細かいことを説明いたしましたが、今後5年間に渡っては、学校事務職員の定数の改善はこのような特例的な加配によってのみ進んでいくということです。
この特例加配の一つの意味は、拠点校への加配であり、当然に共同実施を受け皿として想定しています。もう一つは、この加配方式が全国一律につけていく方式ではないです。あくまでも都道府県教育委員会が文部科学省に対して「うちの県はこれだけの加配を要求したい」と要求・要望を文部科学省に提出をし、文部科学省が調整して毎年度の配分を決めていく訳です。文部科学省のリーダーシップが相当に働く仕組みになっています。これは全国一律の学校規模に基づく定数の配置とは大きく異なったやり方であり、これが今後5年間続くということです。
ご存知と思いますが、当初年度は、蓋を開けてみたら、宮崎県が研究加配も含めて19名の配分、私のおります兵庫県が13名の配分というように47都道府県のなかで二桁の加配を受けている県がある。一方で、東京都も長野県も0、大阪府が定数改善分が4、研究加配分が2で合計6と各県によってバラツキ、較差があります。佐賀が3ということですから、これは各県の判断によって相当違ってきております。
それでは、「各都道府県教育委員会の判断というのは何か?」ということになりますと、一つは財政的な問題、つまり半額分は国庫負担がきますが残り半額分は地方交付税でカバーされるだけです。地方交付税は、佐賀県の財政力に応じて足りない分だけきますので、どうしても地方自治体として、実際に負担があるか否かは別として負担感が出てくる訳です。従って、財政的な判断によって「要求を出そうか出すまいか」という配慮が要望・要求のところで働いてきます。東京都なんかは地方交付税を貰っておりませんので、国庫負担が来ない半額分はもろに東京都の自己負担となります。そうしますと東京都教育委員会は、学校事務職員の定数改善をやるべきか否か非常に迷うところですね。 むしろそのお金をもっと教員の方に使った方が良いのではないか、組合も反対しているそうだとか、いろんな配慮が働いて結果として0ということになっております。従って今後の定数改善については、各都道府県段階での判断が非常に重要になり、これが5年間続くことに、ご留意をいただきたいと思います。
二番目に、このような形で定数改善が進みますが、文部科学省や義務標準法施行令の改正の主旨では、今回の学校事務職員の定数改善は、共同実施を受け皿として想定している。けれども共同実施とは何かということについては、必ずしも明確な定義が行われて実施に移された訳ではありません。ご存知のように義務標準法改正に伴う定数改善計画が始まる2年前から、研究加配という形で全国の39の地域で加配が行われて「共同実施」と呼ばれる学校事務の試行が続いてきました。しかし今年に入りましてから本格実施となり、全国各地から様々な報告があげられております。これを分析してみたんですが、まだ、「共同実施とはこれだ」と明確な、「将来これで行こう」という自信を持って評価できるようなスタイル・内容が生み出されておりません。
しかし、共同実施と呼ばれる新しい学校事務の試行を分析してみますと、いくつかの今後伸ばしていかなければならないと思われる要素を見ることができます。一番長い所で3年、短い所では1年目で、全国各地で試行が行われています。今年度の定数改善は145名です。その程度です。全国で3,300の自治体がある中で、当初年度の145名で、全部実施しても726名ですから、たいした数ではありません。全国的なインパクトを考えますと限界があると思います。従って、あくまでも次のように考える必要があります。
現在の共同実施は、定数改善の側面を持ちますので、この5年間に定数改善による共同実施を定着させて、効果をハッキリと打ち出し、次の第8次定数改善に繋げていく。このような展望が一つは必要です。それからもう一つは、単に共同実施をしている地域や学校に限定しないで、これを学校事務全体、学校事務職員の仕事全体の効果を高めていくような形で活用をしていく。この視点が私は欠かせないのではないかと、これには当然厳しい評価も含めて研究を続けていく必要があると思っております。
よく共同実施に関して、私は定数改善の側面ということを強調しますが、逆に定数削減につながるのではないかというご意見もあると思っております。今年の夏に日教組の全国事務研が島根県の松江、私の故郷でありましたが、私も初めて共同実施を論議する分科会に参加いたしました。出席の方の中には、定数削減に対する危惧・反対というご意見もありました。しかし先ほど言いましたように、これは定数改善措置の一段階として出てきているという点に強く着目しておりますので、定数削減の手段とは考えておりません。かつても現在も将来も、定数を削減するために加配をするなどということはまずないだろうというのが私の考えであります。
共同実施の新しい展開
現場で行われている共同実施の状況を見てみますと、タイプが分かれますので、これを分析して申し上げます。まず、学校事務職員というのは学校に配置されておりますが、我が国の学校事務というのは、個々の学校の運営の中に極めて深く入り込んで行われておりますので、この学校に配置されている学校に密着した学校事務というものを基盤にして共同実施を考えるタイプです。
そうなると当然学校間の連携という形で共同実施を行っていく、これが今行われている実験的試行の一番多いパターンです。学校間の連携という形です。学校事務職員はあくまでも学校に本籍を置いて学校間連携によって一部の事務を集中的に処理しながら、相互に協力しながら、或いは連携してお互いに支援をしながら学校事務を進めていく、このスタイルが一般的だと思います。この場合はせいぜい学校間の連携を強化するということでありますので、例えば、学校事務職員の兼務、A小学校とB小学校の兼務を実現し、兼務体制を作り、学校間の共同性を保証する一つの手立てとして現在行われております。
次に、昨年宮崎県佐土原町の那珂小学校で行われた研究大会に私も行きましたが、ここで学校間連携も視野に入れながら、教育委員会と学校の中間に学校支援センターを作る(学校支援センター即ち事務センターであります)、この事務センターを作っていくことを提案されました。事務センターに特定の職務を与え、そこに予算を配当し、個々の学校からは離れた独自な調整機能を担っていくことをやっておられます。この場合は、個々の学校とは離れた所にセンター的な組織を作る訳ですから、学校事務職員は、個々の学校の職員であると同時にセンターの職員でもあるという、学校とセンターの兼務方式、というやり方になる訳です。学校間連携の場合には、学校間の兼務ですが、事務センター方式は、センターと学校との兼務という方式になります。現在、この二つが学校事務の共同実施の組織的な進め方としては存在しております。
今後どのように発展して行くかは予測できませんが、私は学校間連携を基盤にしながら学校支援センター作りを進めていくのが「いいのかなあ」という風に思っています。ただし、それは私の予測でして、現実はそれを越えた形で進む可能性もあります。
例えば、今年8月に広島県教育委員会が県内の市町村教育長を集めて連絡協議会を開いています。そして「学校事務センターを県内の各市町村教育委員会は試行して欲しい」と、「今年度は試行を行う。来年度本格実施に入れる所から入って欲しい」ということを提起しております。このねらいは、事務センターを教育委員会が自ら積極的に作って行くことによって一定の権限を事務センターに委譲をし、特に手当の認定権等がそこで触れられていますが、そうした権限委譲を積極的に行っていくことです。同時に、センター組織ですから、組織を責任持って担えるような職制を置いていくと、これが事務長ということになるんでしょうが、そうした職制を置くことによって、広島県教育委員会の提案の中には明示的には示されてはいませんが、処遇の改善をそこで考えていくと、こういう提案を広島県教育委員会は行っております。
こうした色々な動きがありますので、今後とも十分注目していかなければならないと考えております。先ほど申し上げましたように、現在は、私個人としましても確定的な評価をそれぞれについて下す自信はございません。ただ、今後の学校事務の在り方を展望しますと、共同実施の定数改善的な側面と、それからこれが個々の地域的な限界の中で止まらずに学校事務職員制度全体に活用されるなら、新しい学校事務の在り方がそこから生まれてくる可能性が大いにあると評価をしております。
職務標準表の発展
次に申し上げたい点は、学校運営における学校事務職員の位置づけを最近の標準職務表の動きの中で確認したい、或いは追究したいということです。佐賀県でも先頃、標準職務表が県教育委員会により提示されました。現在、1993年の静岡県教育委員会の標準職務表に始まって98年が島根、99年三重、2000年以降、大阪、奈良、岩手、栃木、兵庫、そして佐賀、まだこれから続くと思います。標準職務表の県教育委員会段階での通知が相次いで出ています。一体これは何を意味しているかということを、我々は真剣に考えなければいけないと思っております。
モデルになったのが静岡県教育委員会の出しました標準職務表ですので、私はそれを多少分析しまして特徴を指摘してきました。一つは「学校経営への参画」ということを標準職務表の中で明確に打ち出したことです。これはどういう形かと言いますと、標準職務表に学校経営欄という、特別な欄を設けたということです。この特設欄を作ったやり方は、静岡、三重、島根の三県に共通しています。しかし、特設欄を作らないまでも通知の前文とか、兵庫県のように、兵庫県の教育委員会は面白い所で、標準職務表の通知に付録としてQ&Aをつけておりますので、是非、ご覧いただきたいと思いますが、そういう所で学校経営への参画ということを強く滲ませております。つまり、学校事務職員が学校経営に積極的に参加するべきだという認識が、非常に高まっていることの反映だと私は考えております。これが第一点です。問題点は後で申し上げます。
第二点目は、これも静岡県以降の標準職務表にほとんどの県の最近の通知に共通しておりますが、標準職務表の職務の分類表、学校事務の大きな分野を列挙してその分野ごとに小さな主要な事務を付け加えていくというあの表がありますが、あの表の下に(注)をつけて学校事務職員はそれぞれの事務の分野を「総括する」という(注)をつけた訳です。「総括する」という言葉を付け加えたところが、第二番目の特徴です。これは例外なくとは言いませんが、最近の標準職務表に共通しております。このような標準職務表が最近相次いで出された意味と、そして今後我々が追究しなければならない課題について次に申し上げます。
まず、経営欄を作った、経営欄を作らないまでも「学校経営への参画」を強く打ち出したことについては、次のような意義と課題があると思います。まず、学校事務職員の皆さんがベテランの方が多くなり、学校経営について、充分自らの職務を通じて、それに参画する力量を持つようになったことです。そのことが背景にある訳ですが、今後は学校事務職員の職務の発展の方向として、「学校経営への積極的参画」ということを現在以上に進めていく必要があると、そのような意味で今回の標準職務表の動きは大いに歓迎すべきだという風に考えています。しかしながら、「学校経営への参画」を具体的に学校事務職員の職務として特定するためには我々は何を追究しなければならないのか? この「具体的な職務として特定をする」ことが極めて重要だと思いますが、これは今後の課題として残っていると思います。
職務標準表の課題
と言いますのは、学校経営と簡単に言いますけれども、学校事務の立場から見て学校経営の具体的な中味が理論的に明らかになっている訳ではありません。私がこれまで勉強してきた範囲で申し上げますと、「学校経営というのは学校運営の基本方針を策定することだ」という風に考えています。いろいろ議論のあるところですが、一言でいえば、「学校経営は学校運営の基本方針を決めていく」ことだと考えています。これが学校経営の核心だと考えています。だとするならば学校経営を具体化するものは何か?例えば教育課程の編成、学校予算の編成、これは当然要求等も含めます。施設整備計画の策定、教職員の人事配置計画の決定等が学校経営の具体的な中味として出てくると思います。こうしたそれぞれの分野に学校事務職員の皆さんが自らの職務を通じて具体的にどのように関わるのか、ここが明確にならないと学校経営への参画ということをより具体的に発展させていくことができないのではないかと考えています。これは今後の課題として指摘しておきたいと思います。
第二番目に学校事務職員の皆さんが「学校事務の各分野を総括する」とはどういう意味なのか、もう少し追究したいと、またすべきだと提案したいと思っています。と言いますのは、従来の標準職務表はどういう考えでできていたかと言いますと、学校教育法第28条に「事務職員は事務に従事する」と規定してあります。戦後50年以上に渡って学校事務職員の職務に対する、そして役割に対する法的な位置づけとしては、学校教育法第28条の「事務に従事する」という考え方が基本になっています。従ってどのような職務に従事するのか、ということで標準職務表ができてきた経過があります。しかし、静岡の教育委員会の通知が示したものは、そうした従事する職務の内容ではなくて、学校事務職員が総括する職務の内容、この点に大きな考え方の転換があると私は考えています。「総括する」という意味は、結論だけ申し上げますと、経営への参画とは違って「日常的な学校運営をいかに効果的・効率的に進めていくかという観点からなされなければならない、学校事務の管理的な機能だ」と考えています。これは「経営管理」という風に並び称される管理機能なんです。具体的に言いますと、この管理機能の中味は例えば、学校運営全体を見渡して学校事務を効果的効率的に行っていく上で、連絡調整・指導助言・様々な支援活動、以上は組織的働きですが、それを含む物的な管理等も含めて極めて組織マネージメント的な仕事が、「総括する」という言葉の意味内容として確定されていく必要があると考えております。ただこれはあくまで仮説でありますので、今後皆さんと共にこの点についての理論的な基礎固めをしていく必要があると考えております。
第三番目に、以上のような標準職務表の新しい動きを今後更に発展させていく必要があります。私は兵庫県で標準職務表を兵庫県教委に要求するにあたり、それに先立って2年間兵庫県内で学校事務職員の皆さんと研究会をし、議論を交わしてきました。兵庫県の標準職務表が多少ユニークなものになっているのは、そうした議論の積み重ねがあったからです。しかし我々は、現在の標準職務表で満足している訳ではありません。もっと学校事務職員の役割を発展させるような標準職務の在り方を考えていきたいと思っています。
学校裁量の拡大と学校事務
それではどういう所に重点をおいて、学校事務職員の職務内容を発展させたらいいのかという戦略的な考え方に立つ必要があると考えています。それは我々が主観的に「こうであったらいい」と思うだけではなくて、現実にそのような方向に周囲の条件が動いていく中で職務の将来を展望するという見方が重要だと考えています。そういう観点から考えますと、学校の自主性自律性を積極的に学校事務の立場から進めていくという展望の中で学校事務職員の職務の発展を考えていくことが必要だと考えております。
98年の中教審答申の中でも特に強調されていたことですが、学校の自主性自律性といった時に、学校経営の自主性自律性と置き換えてもいいと思うんです。学校経営の中味は先ほど申し上げました教育課程の編制、学校予算の編成、施設整備計画、そして教職員の人事配置計画、これらについて、それぞれ分野の特性がありますので相当中味が違ったものになりますが、自主性自律性を進めていく必要があります。
学校裁量と学校財務・予算
ここでは学校予算の側面から、自主性自律性の今後の課題について指摘しておきます。ご存知の方もあるかと思いますが、学校予算ないしは学校財務の改革で注目すべき事例が2〜3出ております。例えば、横浜市では学校の特色づくり予算枠として小学校に300万円、中学校に400万円の特別予算を配当するようになりました。この特別予算の内容は、各学校で「執行計画を立て、報告し、評価する」という仕組みになっています。まだ始まったばかりですので、これもキチッとした分析なり評価なりということはできておりませんが、そうした動きが一つあります。
二番目に岡山市の事例です。岡山市では、従来都市型の学校予算に共通に見られますような、おそらく佐賀県でも佐賀市などがそうだろうと思いますが、教育委員会が学校予算を一定の配当基準に基づいて一律に配当する方式を止めました。そうではなくて、個々の学校の要求に基づいて配当していく要求予算方式に変えました。このような個々の学校の要求に基づく予算編成のやり方は、今後多少増えてくる可能性もあります。私は学校予算の分析をずっとやっているんですが、小さな町や村ではご存知のように予算編成は次年度の学校予算の予算計画を立てることとして行われております。おそらく日本全国そうではないかと思うんですが、都市部の一律配当方式とは異なった予算の扱いがなされています。そういう中で岡山市は、都市部には珍しい新しい予算要求方式による予算編成のやり方を導入した訳です。
第三番目に神戸市の事例を申し上げます。神戸市では、施設修繕費の学校専決額を従来は30万円だったのを一挙に200万円まで上げました。勿論これは専決額を上げたということであって配当額が上がったということではありません。しかし、神戸市の場合は、そうした専決額の拡大に対応して配当額も上げるようになっています。同時にそうした施設整備に関わる学校事務職員の仕事内容の変化が当然生まれてきますので、これを支援する為に教育委員会の担当課に現場から学校事務職員を配置いたしました。このような制度的な変更を加えることによって、教育委員会が学校とより連携をとった予算執行が行える仕組みを作り出そうとしています。
このように学校の予算・学校財務においても新しい動きが少しの事例ですが生まれています。私はこうしたことをもっと研究することによって、今後の学校予算のあり方や学校の自主性自律性という理念に基づく学校財務の条件整備を進めていく必要があると思います。そうしますと学校事務職員の職務内容の変化の中で新しい職務が生まれ、また新しい教育委員会と学校との関係が生まれ、そして新しい「学校経営への参画」の展望が開けてくるのではないかと考えております。と言いましても我が国の義務制の学校事務職員は、圧倒的多数が単数配置という条件の中で多くの実務を抱えながらの話ですので困難も当然予想されます。そうした困難を抱えながらの新しい試みですから、様々な問題を考えていかなければいけないと思います。学校間の連携、学校間の相互支援、教育委員会との新しい学校事務をめぐる共同関係を作っていかなければならないと考えておりますが、そうした方向で、色々な議論を皆さん方と共に交わすことができたら非常嬉しいと思っております。
学校事務と学校事務職員(制度)の展望
最後になりますけれども、レジュメには「学校事務職員の権限と責任」そして「研修」という風に書いておりますが、この点について結論的なことを述べたいと思います。私は今から十数年前に学校事務ないしは学校事務職員の職務に関する研究を始めました。十年間兵庫県下の小中学校の学校事務に関する調査・研究を続けました。兵庫県下の学校事務職員の皆さんにご協力をいただいて大いにお世話になった訳ですが、約十年間地道な研究を続けました。その成果は、私の今日の学校事務を考える土台になっております。
そういう経験の中で到達しました一つの結論は、学校事務職員の職務内容を考えるためにはどうしてもこの視点が必要だということです。それは、学校事務職員の「職務内容の明確化」・「権限と責任」と、そして「キャリア形成と研修」という、これは三位一体であると思います。このどれか一つが欠けても学校事務、ないしは学校事務職員の職務の発展的改革はありえないというのが、私が研究の結論として持った視点です。私は以後、そうした視点に立って研究を続けて参りました。今日でもその視点については変わっておりません。元々が、教育行政や財政を専攻する研究者ですので、そうしたベースの上に立っての話になります。皆様方には馴染みにくい点もあるかと思いますが、私のような視点からの学校事務研究が今後の皆さん方の研究にとっても大いに参考にしていただけるんではないかと思いながら今日に至っております。
先ほど言いました三つの視点のうち、「職務内容の明確化」・「権限と責任」・「キャリア形成と研修」、この三つの中で、「どれが一番重要なんだ」と、「一つだけ選べ」と言われたら、私は『キャリア形成』を選びます。「キャリア形成」というのは、学校事務や学校事務職員の職務改革の主体的な条件です。この主体的条件が確立されないと制度改革だけでは効果的な学校事務、学校事務の今後の発展はありえないと思います。その意味で、「キャリア形成」という言葉を、そういう思いを込めて使ってきましたし、今一番関心がありますのは、「キャリア形成」をどのようにして発展させていくかということです。
2年前から兵庫県教育委員会の教育研修所で小中学校事務職員の独自の研修プログラムを始めました。帰りましたらすぐその講座に出席することになっておりますが、その中でも強調したいと思いますのは、学校事務職員の職務は「キャリアは現場の中で作られる」、「現場の中で作られたものがそれぞれの学校事務職員のキャリアとして生きていく」べきだと、この視点を失ってはいけないということです。
次に「現場の中で作られる」ということはどういうことか、常に研修においてはケース・スタディを重視しないといけない。私はOJTと呼んでいますが、ケース・スタディを重視したプログラムができないといけません。学校事務職員の研修に対する意識調査をしますと、やはり一番望まれているのは、「自分たちの職務に密着した研修」ということです。それを自主的に組織していくことが望まれていると思います。そういう意味で、このような研究大会は極めて有意義であると私は考えております。どうかこうした研究の場を日常的な皆さん方の職務の、お仕事の改革改善に密接に関連したものとしてプログラム化していただきたいと思います。そういうことを是非ご研究していただいて、我々の参考になるような形で教えていただけたらと思います。
おわりに
学校事務職員という職務が発展していくための条件が三つあると思いますので、最後にそれを申し上げて終わりたいと思います。
第一点は、学校事務職員の資格基準を考えるということです。これは何も難しいことを言っているのではなくて、皆さん方は小中学校事務職員として選考試験を受けて今日に至っておられる訳でありますが、「学校事務職員が学校事務職員であるための固有の条件とは何だろうか」ということを、私は今後考えていきたいと思っています。これが一つです。
二番目には、学校事務職員としての、倫理綱領を持ったらどうだろうかと思っています。この倫理綱領というと何か道徳主義的な匂いがいたしますが、そうではなくて先ほど言いました標準職務表がそれにあたると思います。「学校事務職員の職務とは何であるか」、「社会から要求される職務はこれだ」ということをやはり明確に示すのが標準職務表だと思います。従って私は、学校事務職員の倫理綱領というのはそれだと考えています。
第三番目には、自前の研修制度を持つということです。自前の研修制度を持って初めて、その職種が社会的に評価され、社会的な発展のエネルギーが産まれてくると考えています。
どうか佐賀県の皆様が、これから様々な活動やご活躍をされる中で、今申し上げましたことを少しでも参考にしていただけますならば、大変嬉しく思います。これで私の話を終わらせていただきます。どうもご静聴ありがとうございました。
第11回 佐賀県公立小中学校事務研究大会
シンポジウム「学校事務新時代を展望する」
《清原先生の応答より》
平成13年11月6日(火):アバンセ
姫路工業大学 清原正義教授
「研修制度について」
まず最初に、研修について質問がありましたのでお答えします。小中学校事務職員の研修制度は、各都道府県段階ではきわめて不備なままに現在に至っています。また、政令指定都市等では、都道府県に比べて多少整備された研修制度になっています。
私は、兵庫県でずっと研修制度の必要を訴えてきましたが、研修に対する学校事務職員の皆さんの考え方を積極的な方向で統一するのに、議論を2〜3年繰り返しました。ようやく、研修というものを「主体的な、自分たちの職務に関わる権利なんだ」という認識に立ったうえで、教育委員会にもそういう立場から、「研修制度を作るべきだ」という具体的な交渉を組合等で行い、その結果兵庫県では2・3年前に小中学校事務職員の研修プログラムを2つ用意することができました。これが実現して、今日に至っています。まだまだ試行段階だと思っております。
と言いますのは、2つのプログラムのうち一つは初任者対象です。初任者といいましても最近は採用数が少ないので初任者の概念を少し広げて、経験5年目までくらいは初任者だということで、人数の確保をしております。初任者対象のプログラムともう一つは経験10年程度ないしはそれ以上のある程度キャリアを既にお持ちの方の研修プログラムの開発を現在行っております。
一番の困難は、学校事務職員の場合にキャリアの発展が、「職務内容」と「権限と責任」とリンクした形で、プログラム化できておりません。初任者の研修は、かなり充実したものができていると思いますが、経験を持った方、キャリアをお持ちの方のプログラムが残念ながら発展途上です。まず、OJT的な要素をその中に強く持たないといけないことと、次に、ケーススタディを入れることが必要だと思います。具体的には、県下のある程度ベテランの事務職員の方をプログラムの中にチューターとして、講師として必ず入れるようにする。例えば、「我が校の予算編成はこのようなことをやっている」というような、ケーススタディ的な実践報告とそれに基づく討議をそのプログラムの中に入れるようにしております。この点が一番好評のようですね。
残念ながらまだまだ受講生の数が限られておりますし、研修は、実際に学校現場での職務と密接につながったものでなければいけないと思います。これがただ単に、例えば兵庫で言いますと、日本海側の郡部の学校から来られた方が、神戸の学校の話を聞いて、「いいお話を聞きました」と感心して帰っても、自分の学校ではそれがなかなか活かせないというようなやり方を実は長年繰り返してきたんです。
そういうことではなくて、具体的に、明日から自分の学校で活かせるようなプログラムを開発していくべきだということで模索を続けているところです。これは全国的に今後の課題ですので佐賀県でも、そういう研修プログラムを、ネットワークというお話しが先ほどありましたが、研修もやはりネットワークだと思いますが、そういうシステムを、ご研究いただければたいへんありがたいと思っています。以上です。
「標準職務表と経営への参画」
質問ありがとうございます。標準職務表のことが出ましたので、そのことについて、少しだけ申しあげたいと思いますが、兵庫県で今年の1月に標準職務表を県教委が出しました。これをどう活用するかということで今県下でいろいろな試みをやっています。
と言いますのは、県教育委員会が標準職務表を出しましても、あくまでも各市町村教育委員会や教育長に対する通知という形で出すわけです。佐賀県でもそうではないかと思います。その通知は「県の教育委員会としてはこう考えますよ。これを参考にしてご判断下さい。」という程度のものですから、「このとおりにしなさい」という拘束性を持つものではありません。従いまして、県教育委員会が通知を出しても、市町村教育委員会がどう主体的に判断し、活用するかで実効性が大いに違ってきます。兵庫県ではまず市町村教育委員会に対する取り組みを強めようということで、いろいろな形で「市町村教育委員会が積極的に、県教育委員会の通知を受けてこれをどうするんだ」ということを今検討しております。
その中で、いくつかの対応がでております。一つの対応は、市町村教育委員会が、「ああそうですか。それでは更に校長に通知として流します。」と、要するに市町村教育委員会としては、今度は学校に丸投げする訳です。校長は、「こんなのが来ましたよ」と事務職員に見せて終わりということもありますので、そういう丸投げ方式は具合が悪いのです。それで、今やっておりますもう一つは、教育委員会が財務取扱要項のように標準職務を要項として出す方式です。これを学校運営に活用するように各学校に対して指導をする訳です。このような仕組みを作れないかということでやっております。一つ二つの市で実現しました。まだまだ標準職務表の活用については、大いに前へ進めなければいけないという段階です。
そういう中で、先ほどご質問の中にありましたように、運営委員会、職員会議等へ参画して積極的に発言していくことはたいへん結構なことだと思います。経験10年とおっしゃいましたが、これは浅い経験ではなくて、学校事務職員の職務にだいたい精通するのが10年、ほぼ習熟するのが次の10年だと思います。過去に、兵庫県下の八百数十名の事務職員からいただいた調査で、「事務職員の仕事に習熟するのにだいたい何年かかりますか」という質問をしたところ、一番多かった回答が10年だったんです。ですから、10年というのが一つの目安だと思います。それはあくまでも現在の職務内容を前提にした場合です。10年の経験がベースになり、次のステップでの学校事務職員の職務は、学校経営に積極的に関わっていくことによって伸ばすことが必要ではないかと思っています。
ただ、学校事務職員の職務は、いろいろ研究してみますと非常に奥が深くて複雑なんです。先ほど簡単に申し上げて恐縮だったんですが、「学校経営の参画」と、「学校事務を総括する」ということはレベルの違うことなんです。みなさん方が日常的にやっておられる仕事には二つの種類があって、厳密にいうと三つですけど、まずは所与の仕事を、与えられた仕事を効率的にこなしていく、いわゆる「事務に従事する」、「事務を処理する」というレベルの仕事です。次に、これを「総括する」いわば学校運営全体を見通すなかで効果的な学校事務の運営・効果的な学校運営への事務の在り方を追究していくという、これは管理機能になります。そういう総括的な仕事と、もう一つは学校運営の基本方針の策定に積極的に関わっていく経営的な働きです。この三つがあると思います。職員会議や運営委員会ではそうした、三つの種類の仕事がごっちゃになって渾然一体で出てきますので、非常にその関わり方が難しいことになろうかと思います。その点は、我々が研究を進めないといけないところですが、基本的には学校事務職員が「学校経営に参画する」というのは、学校事務職員の皆さんが抱えておられる実務をベースに、自らの職務に立脚して学校経営に参画することです。やはりこれが基本だと思います。
学校経営というものは三つや四つの分野に分かれますので、それぞれの分野で学校事務職員が「学校経営に参画する」ということをどう特定していくかです。学校予算の領域だと多少今まで研究されておりますが、他の分野では必ずしも理論的に追究されていませんので、そのへんの追究がこれからの課題だと思います。そこが明らかになれば運営委員会に出ても、自信を持って発言ができるようになるのではないかと考えております。ちょっと具体的でなくて申し訳ありませんがそのような答えでよろしくお願いします。
「公務員制度改革と教職員の評価」
これから大きなテーマになる問題として、公務員制度改革と教職員の評価の問題があることを、先ほど楽屋で申し上げていたんですね。ご存知のように公務員制度改革は、国のレベルで相当進行しておりますし、これは地方にも波及してきます。
そのポイントは、現行の職務給制度と連動した制度のベースになっている職務の格付けの見直しがあるだろうと思います。そうなってきますと、もう一度学校事務職員の職務の格付けを全国的にどのようなところで設定するのかという話しがでてくる訳です。
それとからんで、これも給与問題とも関わりますが教職員の評価の問題です。教員の場合は、特に昨年までいわゆる指導力不足教員の問題等があって、そちらの方からの社会的要請に基づいて教員の評価ということが進行しだしています。今後は、教員だけではなく学校事務職員も含めた教職員全体の評価制度ということで出て来ると思います。現に東京都は実施しておりますし、大阪府ではそれを検討しておりまして、私は何をかくしましょう、その検討委員会の委員でございます。(笑い)私が何で委員になったかというと、教育委員会と組合の双方から「学校事務職員のことはおまえしか分からんから」ということで推されてなった経緯があります。しかし、私は、現段階ではまだ学校事務職員の評価についてそんなに自信をもっている訳ではないんです。これはどこでも隠さず申し上げております。いろいろ皆さんのご意見を聞いて一緒に考えていかなければいけない問題だと考えています。しかし、一方で一般行政職の方の評価制度の研究開発も相当進んでおります。そういうこともにらみながら、学校事務職員の今後の職務内容の変化ということも想定しつつ、きちっとした評価制度の対案を出さないといけない時期にきていると考えています。
そういう意味から言いますと先ほどのご質問にありましたような職務の格付けを上げていく、課長級、課長クラスと同等の職務格付けをしていくことが当然必要なことだと思います。その前提は「どのような職務が学校事務に即して発展しなければいけないのか」ということになりますので、共同実施等もにらみながら、そうした“職務の発展”をまず考えていく必要があると思います。
これは、必ずしも管理職とつながるとは限りません。例えば高校の事務長さん、相当な専決権を持っておられますが、必ずしも管理職として位置付けられているとは限りません。この前も兵庫県の高校事務長会の方が私の所にいらっしゃいまして、来年兵庫県で全国大会をやるからとシンポジウムのパネラーを依頼に来られたので、お引き受けしました。いろいろお話しを聞いておりますと、「いやーそれやったら小中学校と同じような悩みですね」というような話しをしたばかりです。ですからこれは今後更に検討していかないといけません。
いずれにしても前提は「職務の発展をどう展望するか」ということだと思います。竹下さんが先ほど、「横並びを脱却する」とおっしゃいましたので、私もその点は全く同意見なんです。ただ横並びの部分も必要だと思います。横並びの部分から脱却して、個性的にできる部分も必要です。これは両方が必要ではないかと考えています。以上です。
「学校事務の発展とビジョン=まとめ@」
先日、福島県にこれと同じような研究大会でおじゃました時に、フロアから「希望をもてるような話しをしてくれ」というご要望が出まして、「いや希望というのは作るものだから、何かあるものとはちがいますよ」という話しをしました。
我々がこれから学校事務の将来、それから学校事務職員の職務の発展を考えていくにあたって、ビジョンが必要だと思います。それは空想的なビジョンではなくて現在の職務の中を冷静客観的に分析する中で出てくるビジョンが必要だと考えています。
先ほど、「学校事務職員の職務と言うのはこれまで属人的だとみなされてきて、ここから脱却をして客観的なシステムを作っていくべきだ」という流れでお話しがありました。私もそこまでは一緒なんです。そこまでは同じなんですが、“属人的”ということはもう一つ高いレベルで捉えかえすこともできるんです。これまでは、学校経営があまりにも画一的な形で進められてきました。これからは、学校経営自体を“特色ある学校づくり”のような形で、弾力的な学校運営、あるいは個性的な学校運営を目指す、これが今後の学校の自主性自律性という考え方に基づく学校の姿だと思います。そのために予算の仕組み、財務の仕組みも改めていかなければいけない。あるいは教育委員会と学校の関係も変えていかないといけない。また、学校がより地域社会と連携してその地域に固有の学校運営の在り方というものを追究していかなければいけない。こういう課題がどんどん出てくると思います。
これからは学校で判断すること、学校でそれぞれのスタッフが自らのキャリアを基にしてどんどん発言していく機会が、客観的な状況として増えてくるだろうと考えています。そうなりますと、学校事務職員の皆さんが、そのキャリアを前提にした更に高いレベルの属人性を発揮する機会は必ず出てくると思います。そのようなものに、システム全体を、制度全体を展望しながら改めていく課題があると考えています。
今、話題になっております共同実施につきましては、私もこれを基本的に進めようという考え方でおりますが、その中身については、まだまだ我々が研究していかなければいけない課題がたくさんあります。学校間連携でいくのか、学校支援センター方式でいくのか、このことについても今後もっと研究しないといけません。共同実施が学校事務職員の皆さんの全体の中で活かされるような、これを単なるエピソードに終わらせないで、学校事務職員の歴史の中に画期的なステップを踏み出すきっかけになるようなものとして活かすことが必要だと思っています。
そういう中で、例えば関西でも若い事務職員の方がこれからどんどん入って来られようとしています。大阪府が十数年、新任の事務職員の採用をしていなかったのが、ようやく今年度から再開されました。我々の世代の、ここにいらっしゃるパネラーの方が退場される頃には、新しい事務職員の方が入って来られるわけです。世代間交代を目の前にして、今ここでしっかりとしたビジョンを打ち出していく責任が、我々の世代にはあるのではないかと思っています。
私のゼミの学生が、今年学校事務職員の試験を受けましたが、落ちました。ほかのゼミの学生が、受かりまして大変喜んでいるところなんですが、私はこれから新しい世代の学校事務職員の皆さんにきちっとした将来ビジョンを示して、「こういう風に学校事務を発展させていこう」と自信を持って言えるような中身を作っていく責任を痛感しております。どうか皆さんもそのような方向で頑張っていただくようにお願いしたいと思います。以上です。
「学校事務と学校事務職員制度の展望=まとめA」
それでは、十分なまとめにはならないと思いますが、質問もございましたので、それにお答えすることでまとめ的な感想を申し上げたいと思います。フロアからのご意見・質問が、活発になされておりまして、「レベルもずいぶん高いなあ」という感じで聞いておりました。
まず、第7次定数改善計画が共同実施を受け皿にして現在進行中ですが、第8次までを展望した場合に「そんなに楽観的な見通しは、できないのではないか」というご指摘だったと思います。学校事務職員の定数問題につきましては、今日申し上げませんでしたがいくつか考えておかなければならない問題があります。その一端は、フロアからご指摘がありました市町村費事務職員の定数削減の問題です。これもあわせて定数問題を考えなければいけない。
第7次定数改善の問題だけに留まらず、もう少し広げて考えたいと思います。一つは、子供の数がどんどん減っております。過疎化と少子化が重なって、学校の規模が小さくなっている。学校の規模が小さくなると必然的にクラスの数が減りますので、学校事務職員の定数の範囲が狭まっていきます。鹿児島の方が今年の夏の日教組全国事務研の分科会で、この5年間に何十人と定数が減るんだということをおっしゃっていました。児童数の減少によって定数が減少しますが、義務標準法第9条の学校事務職員定数の一律的な算定方式に従えばそうなるわけです。これから全国的にそういう意味での定数の減少というのはおきてきます。
ところが、定数が減るから事務職員の現員を減らすことができるかというと、これはなかなか難しいわけです。現に大阪府で、この十数年事務職員の採用が無かったのは、児童生徒数の急増期に増やした定数を、その定数は減っても実員は維持しなければいけないということで、いわゆる過員対策として消化してきたからなのです。ようやく今年から新規採用に踏み切りましたが、学校事務職員も、これは教職員全般に共通することでもありますが、非常に定数の弾力性に乏しいという問題があります。
今回の第7次定数改善が、義務標準法15条の特例加配によって行われたのも、特例加配であれば、9条のように学校規模が小さくなり、学級数が減ることの影響を受けないわけです。ですから児童生徒数の減少に左右されない定数の改善という意味を持ちます。あくまでも現員数の自然減を見越して改善計画を立てますから、トータルでみれば学校事務職員定数の実員の総数は、そんなに変わっていないことになりますが、今回の特例加配による改善には、そんな意味もあることをご理解いただきたいと思います。ただ、特例加配というのは毎年度の予算措置で保障されます。法律によって定数の算定をきちっと改善して、それに基づいて措置していくのとは違うわけです。だから、5年間の計画で726人、毎年度145名ずつの改善を行う予定があって、来年度の予算要求には、文部科学省が示した2年度目の改善予定数も145と書いてありますが、最終的には2月ないし3月の国会で予算案が確定しないと保障できないわけです。尚且つ、先ほど申し上げましたように、その配分については、文部科学省と各都道府県教育委員会との調整の結果待ちということです。具体的にどこの学校にいつ加配がつくのかが分かるのかは、更に遅れるというように混乱を招きかねない要素を持っていることを理解しておく必要があります。
そういう仕組みですから、「第8次がこの延長で展望できるのか」と言われたら、「いや絶対大丈夫ですよ」とは誰にも言えないと思います。現在それを保障できるような人は、内閣総理大臣といえども無理だと思います。従って、毎年毎年の財政状況や予算編成をめぐる政治状況に左右されざるを得ないという意味では不安定な改善措置ということがあります。
教員については、社会的な反響も大きいですから少人数指導等を目的とする加配を措置しないというようなことになりますと、相当な社会的批判を受けますから、それは無いと思うんですが、学校事務職員の場合は社会的アピールをこれまでしているかというとしておりません。残念ながら。その一つの証拠をあげますと、今年の3月に野党提案で、野党3党、民主・社民・共産の3党で30人学級法案というものを出しましたが、この30人学級法案の中身を見ますと、残念ながら学校事務職員の加配要求は含まれていないんです。複数配置基準の引き下げということが形式的に掲げられているだけで、正味のところの定数要求というのがすっぽり抜けているんです。私は、30人学級法案の不備な点だと言ったことがあるんですが、そういう意味で社会的な認識が学校事務職員の加配については少ない。従って、もし第8次というものを展望するのであれば、やはり第7次できっちりと学校事務職員の加配効果をアピールする必要がある。それを抜きに「第8次があるかないか」という議論はあまり生産的ではないと思っています。
教頭職の問題を質問されましたので、これについて少しだけ申し上げますが、教頭複数化を拡充していくことは確かに第7次定数改善計画の大きなポイントの一つです。これが果して学校事務職員定数の改善に今後影を落とすのかどうかについては、私は、定数改善計画のレベルではそれ程ないだろうと思います。ただ、教頭の複数配置化が進めば当然に具体の問題として、学校事務職員との職務内容の整理という問題がおきてきます。現在教頭の職務内容が非常に不明確ですから、学校事務職員の職務内容といろいろなところで重なっている。しかもその整理がついていないという現状があります。これを、今日申し上げませんでしたのは、私の勉強不足で申し上げなかったんですが、やはりきっちりと整理しておく必要があります。
これにつきましては、前回の研究大会に宮崎県の日渡さんが来られたと思います。日渡さんが宮崎県教育委員会の学校管理規則のプロジェクトチームでいろいろな案を作って、宮崎県下全体の管理規則の改正に力を尽くしておられますが、その管理規則のモデルの中で、相当に教頭の職務と学校事務職員の職務の整理をしておられます。私は勉強不足な点でして、今後整理をして考えを発表したいと思っておりますが、今日のところはご勘弁いただきたいと思います。ただ定数問題でいうと、感じではそんなに定数改善計画に陰りを落とすという程ではないだろうと思っています。
先ほどの話に戻しますが、フロアからもご発言がありましたし、パネラーのお答えの中にもありましたが、今後の学校事務職員の配置については、「その効果をどう評価するのだ」との観点がともなうと思います。これは学校事務職員だけではありません。教員の加配についても一人あたり800万円から850万円のお金がかかると言われているんです。“その配置によってどのような効果があるのかを評価する”それが政策評価であり授業評価であるというようになっていくと思います。学校事務職員についても、“学校事務職員を配置したらこれだけ学校が良くなる”ということをやはりきっちりと示していく必要があると思います。先ほど学校事務職員を加配すること、これは共同実施をすることと同義でありますが、そうした場合には「何がどう良くなるのか」ということです。子どもの立場に立ってということも先ほどおっしゃっていましたが、そういうことも含めて、学校運営の効果がどう改善されるのかが大変重要ではなかろうかと思います。
教員の加配の場合でも、現在いろいろ全国に実施されている目的の中身を見ますと、教育方法の改善だけではないんです。教育方法の改善だけではなくて、学校運営の効果を高める、例えば担任の複数化にしても、学年ブロック化にしても、総合学習の支援体制にしても、単純に教育の効果を高めるのではなくて、学校運営をどう効果的に行っていくかという観点から評価されているのです。ですから学校事務職員の場合も「学校運営の効果をどう高めていくんだ」ということが評価の視点として重要だと思っています。そのことを是非念頭において、進めていただけたらと考えます。
それから定数問題と関わって、先ほど言い忘れましたが、市町村費事務職員の削減は依然として続いています。これは東京などでもそうですし、私の住んでいる兵庫県でもあります。ただ大量に市町村費負担の事務職員を抱えておられる、例えば広島市はたくさんの市費職員を抱えておられますが、今後そうした所でどういう動きが起るのかということを、注目しておかなければいけないし、同時に、この市町村費負担職員の削減への対応を十分に考えないといけないと思うんですが、いい案がないんです。率直にいいまして。非常に対応しにくい問題だというのが現実なんです。
かつて大阪市が事務センターを作ったのですが、これは市費職員の定数を維持するために、市費職員を学校からは引き上げたけれども、事務センターに止めて、全体として“学校事務の再編”を図った。その事によって市費職員の定数を維持したと、これが唯一成功例なのです。あとは引き上げというと、もう引き上げられっ放しというのが多いんです。残念ながら有効な対応の仕方を見いだしていない訳で、今後の課題だという事を申し上げておきます。
それから、再任用のお話がありましたが、これも今後の研究課題です。私も勉強したいと思っているのですが、来年度から全国的に学校事務職員の再任用制度が始まります。今年度から教員については、非常勤講師の定数内配置が始まっています。これがどう展開していくかは今後の問題なのですが、再任用職員が配置された学校の職務内容や勤務体制等の在り方については、未知の体験ということにもなりますので、今後考えていただかないといけないし、我々も考えないといけないと思っているところです。ここにおられるパネラーの方が、再任用でまたいらっしゃることも十分予想されますので、前向きに考えていく必要があると思います。今後の学校事務職員の雇用形態の多様化ということにもつながりますので、どうしても研究しておかなければならない課題です。
もう一点だけ申しあげたいことがあります。先ほどフロアの方でしたでしょうか「学校事務部の経営案を作っていこう」ということを提案されました。既に理論的な、実践的な研究は相当進められていますが、その時に考えていただきたいのは、講演の中で少し触れましたが、校務分掌の見直しが非常に大切です。これを教務部と事務部とに分けて考えていくことも大切なことです。学校の運営組織をいかに効果的なものとして作っていくかは、大変重要なことなのです。今の校務分掌の在り方をいいとは思っておりません。標準職務表と運営組織に分けて考えるべきだというのが、私の意見です。校務運営組織の在り方を学校事務職員の立場から、学校事務の観点から追究していくということは大変重要なことだと思いますので、是非引き続きご研究いただきたい。それを事務部経営案という形で発展させていくことにつきましても貴重な事だと思っております。
その時に学校の経営についてですが、“学校経営とは学校運営の基本方針を決めていくこと”だと思います。その基本方針を決めていくことがいくつかの分野に分かれてきます。本当は、校長は毎年度、「今年度の重点的な方針はこれですよ」と簡潔明瞭に教職員・地域の人・保護者、場合によっては児童生徒に対して示さないといけないと思います。これが示されないと、「学校経営に参画する」といった場合に、「学校事務職員がどのようにその学校経営に参画するのか」についての具体的なイメージが確定しません。私は「まず校長の評価をやるべきだ」ということを今大阪で言っております。そうした学校経営方針を校長が示すことによって評価が成り立つと、その無いところに評価はあり得ないと申し上げている訳です。そういう観点を組み込んで事務室の経営案や学校の分掌体制を考えていただけたらと思います。まだまだこの点は、発展の余地があると考えております。
お話ししたいことはたくさんございますが、時間も相当せまっておりますので、この程度に止めたいと思います。今日来る途中、電車の中で河合隼雄さんという臨床心理学で世界的に有名な方の本を読みながら来ました。あれだけの高名な学者になった現在も尚50分間カウンセリングを続けておられます。その50分という時間を必ず確保してやっていると、それは自分がそうしないと研究者として堕落していくからだと書いておられました。同時にカウンセラーは、そのクライアントに対して、いつも有効な発言ができるとは限らない。「ああ今日も失敗したなあ」と「そういうことを自覚してはじめてプロなんだ」ということを書いておられました。先ほどの3人のパネラーの方がキャリアを積まれた果てに「やはり自分たちには、こういう問題があった」ということをおっしゃっているのを聞いて、電車で読んできた河合隼雄さんの、「そういう認識があってはじめてプロなんだ」という感想と重なりました。そういう意味では、これから3人のパネラーのご意見も勉強させていただきまして、学校事務の理論、学校事務職員の役割についての研究を深めたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いしたいと思います。どうも今日はありがとうございました。